ある日、うさぎさんとかめさんはどちらが早いか丘の上の大きな木までかけっこを
することにしました。かめさんは普段からやる気の見られないマイペースな為
とても足が遅く、元々要領よく何でも難無くこなすうさぎさんは、あっというまに
かめさんを追い抜き、ついには、かめさんの姿も見えないところまできました。
「おや、かめが見えなくなってしまいましたね」
辺りを見回しても人影ひとつ見当たりません。うさぎさんはふと、すぐそこに心地
良さそうな場所を見つけました。
「ああ、ちょうどいい木陰がありますね。少し休憩していきましょうか」
うさぎさんは木の根元に腰を下ろすと、日々の疲れがたたったのか、ついつい
うたたねを始めてしまいました。

どのくらい時間がたったでしょうか。かめさんはやっとうさぎさんに追いつきました。
うさぎさんは、まだすやすやと寝息を立てています。





「へえ…こいつもこんなトコで寝る事あるんだな」
かめさんは最初そんなことを口にしていましたが、次第にその無防備な寝顔
に思わず欲情し、生唾を飲み込みました。
「うさぎの寝顔…ごくり…」
木陰で眠るうさぎさんの顔に、かめさんはついつい見入ってしまいました。





「…かわいい」





かめさんは無意識にかがみこみ、そして気がつけばその視線はうさぎさんの
瑞々しい唇へとすいよせられていきました。徐々にかめさんの唇もうさぎさん
の唇へとすいよせられるように近付いていきます。





「………」
はた、とかめさんの動きが止まりました。





「…いやいや、何を考えてるんだぼくは。いくらこいつがかわいいって言っても
男だぞ?それに今は勝負の最中だ。これは一時の気の迷い…そうなんだ」
かめさんは自分に言い聞かせるように呟きます。
「よし、行こう………!?」
と、かめさんが立ち上がろうとしたそのときです。かめさんはその腕をうさぎさんが
つかんでいることに気付きました。





「…やめちゃうんですか?」
なんだか少しもの欲しそうな顔でうさぎさんはかめさんを見上げています。
うさぎさんの潤んだ目と艶めいた唇からかめさんは目が離せません。





「う、うさぎ…きみ起きて…!」
かめさんは見た目はそうでもありませんが、相当驚きました。
慌ててうさぎさんの手を振りほどこうとしましたが、うさぎさんの求める
ようなまなざしに、思わずそうするのはやめてしまいました。
うさぎさんは濡れた瞳をかめさんに向けています。

「キス、したいんでしょう?このヘンタイ」





さきほどまでの求めるような表情から一変して、なんというSっぽい表情
でしょう。うさぎさんは挑戦的な目でかめさんを見つめました。
しかし、その視線は誘っているかのようにかめさんの心を捕らえ、はなして
くれません。艶を含んだ声もかめさんの背筋をぞくぞくと刺激します。
「ば、ばか。ぼくがそんなコト思うわけ……」
そんなことを言いながらも、かめさんのかめさんは先走ってフライング気味です。
「ふふ、そんなこと言ってもカラダは正直ですね」
くすくすと笑いながら、うさぎさんはかめさんのかめさんを眺めました。





「…じゃあ、いいですよ。かめがしてくれないなら私がするまでです」
そう言うと、うさぎさんはするりとかめさんの首に腕を回し、引き寄せるように
唇を重ねました。うさぎさんの唇は想像以上に柔らかくいい気持ちです。
「え、ああ…いや。勝負どうするんだよ?」
かめさんは少し戸惑い気味にうさぎさんに尋ねました。
「私とイイコトするより、勝負が大事ですか…?」
「別にそう言う訳じゃない」
「それならいいじゃないですか。私はどっちが勝っても良かったんです。…ね?」
だから続きをしましょう、とうさぎさんはかめさんに今度は深く口付けました。
うさぎさんと舌を絡ませあいながら、かめさんは(まあ、いいか。勝負はいつでも)
と、うさぎさんの背に腕を回し抱き締めました。
長い長いキスを終えると、かめさんはうさぎさんを抱きかかえ木陰のわきの茂み
へと入っていきました。
「?」
うさぎさんが不思議そうな顔でかめさんを見つめます。
「あんな場所でやってたら、きみの感じている顔を誰かに見られてしまうかも
しれないだろう」
「おや、随分と優しいんですね」
愉快そうに笑ううさぎさんの声が、喘ぎ声に変わったのはそれから間もなくの
ことでした。


おしまい




※ほめ子さんの世界やおい童話シリーズ『うさぎ×かめ』を参考。